Vol.01 靴磨き職人日本一の細見大輔さんに伺う、 モノ選びのポリシーやメンテナンスの大切さ。 | munekawa

Vol.01 靴磨き職人日本一の細見大輔さんに伺う、
モノ選びのポリシーやメンテナンスの大切さ。


Munekawaのスタッフがモノ作りについて対談や取材をする新企画『Good craftsman,good things』。
 
記念すべき第一回目は靴磨き選手権大会2020優勝者・細見大輔さんに、レザーの良さやメンテナンスの大切さ、モノの選び方などをお伺いしました。
 
細見さんは大阪の靴磨き専門店[THE WAY THINGS GO]に勤務し、靴磨き選手権大会2020にて優勝。現在は[オリエンタルシューズ]に勤められています。
 
 
 
 


 
 
 
 

 
 
 
髙橋:靴磨き職人を目指されたのはいつ頃ですか?
 
 
細見:4年前ですね。30歳の時に靴磨き専門店があるという記事をネットで見たのがきっかけです。故郷にはそういった専門店がなかったのでおもしろそうと思い、地元で始めました。そうしているうちに[THE WAY THINGS GO]の石見豪さんに声をかけてもらったんです。
 
 
髙橋:僕は大学卒業後から[Munekawa]に勤務し、財布などの小物を中心に作っていますが、レザーを好きになったのは靴からなんです。父が所有していたレッドウィングを見た時に衝撃を受けて……。やはり細見さんもレザーシューズがずっと好きだったんですか?
 
 
細見:実はスニーカー一筋でした(笑)。40~50足は持っていて、社会人になるまでスニーカーしか履いたことがなかったんです。昔は靴屋で働いていて、当時の上司にレザーシューズのメンテナンスを教えてもらったのをきっかけに興味を持ちました。
 
 
髙橋:そうなんですね! どんなところに興味を持たれたんですか?
 
 
細見:やはり経年変化ですね。一つのモノが時間と共に様々な表情に変わっていくところが、レザーならではの魅力と感じました。
 
 
髙橋:わかります! 僕も履き込んでいくうちに立体感が出たり艶が増したりするのが好きです。
 
 
 

 
 
 
細見:履き込んでクラック(レザーが割れること)ができているシューズってたまらないですよね。そこまで履き込んだということが、カッコいい。
 
 
髙橋:財布やバッグもレザーが剥がれたり傷がついたりすると、味が出てきたなと愛着が増します。レザーアイテムをよく使われますか?
 
 
細見:バッグや財布、ほとんどがレザーですね。僕も傷だらけになっているのが好きなので、長年愛用しているモノばかりです。
 
 

細見さんが7年ほど愛用されているブライドルレザーのキーホルダー

 
 
 

高橋が愛用中のペンケース、キーケース、パスケース

 
 
 
髙橋:スニーカーを収集されていたそうですが、レザーアイテムも集められているんですか?
 
 
細見:それが歳を重ねるごとに考え方が変わってきて、数をたくさん持つより一つのモノをがっつり使い込んでエイジングさせるのが好きになりました。レザーシューズは10足ほどしか持っていませんね。受け売りですが同じ靴をじっくり履き込むほうが、その靴の良さを知れるんじゃないかと思うんです。
 
 
髙橋:あるお客様が[Munekawa]の財布を7年くらい愛用してくださっているのを見た時に、僕が作ったモノが時間を経てその人だけのモノになっているなと、長く愛用する素晴らしさを改めて感じました。
 
 
細見:お客様がお持ちのモノから影響を受けることってありますよね。靴磨きをしているとやはり幅広い年代の方が、様々な靴を持ち込まれます。大切にメンテナンスをして20年くらい履き込まれている靴を持ち込まれたことがあって、独特の雰囲気を醸し出していました。値段だけでは良し悪しを図れず、どのように使い、メンテナンスをしてきたかで見える良さがあるんだと感じましたね。
 
 
 

 
 
 
髙橋:一つのアイテムを長く使うようになったのは、レザーに出合ってからですか?
 
 
細見:そうですね。スニーカーを履いていた時はあれも履きたいこれも履きたいという感じで、気に入れば色違いを買うことも。しかも全て履いていて、1日で2足を履き替えることもありました。例えば昼は買い物に行くからカジュアルなスニーカーに、夜はちょっとシックな飲み屋に行くから大人っぽいスニーカーにとか(笑)。
 
 
髙橋:すごい!
 
 
細見:靴ってコーディネートの要なので合わせ方も大切だと思うんです。でもたくさん持っていないとできないということはなく、レザーシューズを履くようになってからは、服やシーンによって磨き方を変えています。
 
 
髙橋:鏡面磨きですか?
 
 
細見:鏡面磨きというとピカピカに光った靴を思い浮かべられると思いますが、輝きにはTPOがあると考えていて、チノパンやデニムでは光沢を抑え気味にする、結婚式ならしっかり光沢を出すといったように、シーンとコーディネートに合わせることを提案していました。また職人によって光沢の出方が違います。
 
 
髙橋:輝きに個性があるんですか?
 
 
細見:光沢のバランスで個性が出るんです。ちなみに大会では光沢のバランスが取れているかも見られます。
 
 
髙橋:磨き方のバランスとは、具体的にどのような違いがあるんでしょうか?
 
 
 

 
 
 
細見:例えばつま先もサイドもしっかり光らせる人もいれば、グラデーションをつける方もいらっしゃいます。グラデーションの範囲が広い人もいれば、狭い人もいて、さらに靴によっても変わりますね。
 
 
髙橋:すごい奥が深いですね……。鏡面磨きって一定の光らせ方だけと思っていました。大会の動画を拝見したのですが、磨いている間の所作や身だしなみが美しく、無駄のない動きにほれぼれしました。
 
 
細見:ありがとうございます。所作も審査ポイントに入るんです。みなさん技術は素晴らしいので、所作の美しさで差がつく時もあります。磨いている姿を動画に撮って何度も見返して、身体の動きを最小限にできて美しく見える角度を指導してもらいました。
 
 
髙橋:ちなみに普段の生活でも気にされていますか?
 
 
細見:それはぜんぜん(笑)。ただ手の置く場所や座った時の足は、少しだけ意識しているかもしれません。僕はすぐに猫背になるのですが師匠に厳しく教えてもらったお陰で、靴磨きの時の姿勢は習得できました。
 
 
 

細見さんの足元。取材時はOrientalのタッセルローファーを履かれていました

 
 
 
髙橋:たしかに! 今日もずっと足を揃えられていますね‼ ちなみに靴磨きを少し拝見させていただいてもいいですか?
 
 
細見:もちろんです。
 
 
 

 
 
 
細見:まず汚れを落とし、クレンジングをします。
 
 
 

 
 
 
細見:次にクリームを塗ります。布で塗る方もいますが、僕は手で。手でつけると適量がわかりやすいんです。
 
 
髙橋:たっぷりつけたらいいってわけではないんですね。
 
 
細見:少量を取って均等に伸ばしています。クリームはつけすぎても、少なすぎてもいけないんです。
 
 
 

 
 
 
細見:次は豚の毛のブラシでクリームをレザーの中に押し込みながら、摩擦で光沢を出します。
 
 
髙橋:すごい早い! これって力を入れているんですか?
 
 
細見:意外と力が必要です。見えている感じよりだいぶ力が入ってますね。ブラッシングが終わったら乾拭き。表面に残った余分なクリームを拭き取ります。ここまでがベースのケアです。次はワックスを指で均等に塗って鏡面の下地を作り、布で磨きます。
 
 
髙橋:布はどのような物を使われているんですか?
 
 
細見:少し起毛した生地を使っています。
 
 
 

 
 
 
髙橋:すごい! ピカピカになってきましたね‼ これはすごいテクニックが必要そう。力加減で輝きが変わることもありますか?
 
 
細見:均等にしないとムラになりますね。最後はブラシで仕上げをして完成です。
 
 
 

今回はOrientalのストレートチップのキャップ<つま先>のみを鏡面磨きしていただきました

 
 
 
髙橋:僕は鏡面磨きをしてもらったことがないんですが、今度してみようと思います。やっぱりメンテナンスって大切ですね。
 
 
細見:たとえクラックができても、きちんと保湿すれば履けますし、10年20年と使えますからね。どれだけ愛着をもって手をかけてあげるかで、購入した金額以上のカッコよさになるところがレザーのおもしろさ。靴磨きがライフスタイルの一つとして根付いてほしいなと思います。シューズに限らずレザーアイテムって、その方のライフスタイルまでも映し出すのではないでしょうか。
 
 
髙橋:なるほど。改めてメンテナンスの奥深さを知りました。そしてレザーはこんなに個性を出せるんだという可能性も感じました。お客様にメンテナンスの大切さをきちんとお伝えして、長く愛用していただけるようにがんばります。
 
 
 
 


 
 
 
 

オリエンタルシューズ株式会社
営業部
細見大輔

東京の靴専門店に勤めた後、故郷で靴磨き職人を始める。大阪の靴磨き専門店で修業を経て、靴磨き選手権大会2020優勝。

オリエンタルシューズ株式会社ホームページ
https://oriental-shoemaker.com/

Munekawa
髙橋純

入社7年目。レザーをこよなく愛し、一時期はレザーシューズ以外履かなかったことも。現在も使用しているアイテムの多くはレザー。

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